「地域で頑張るあの人にスポットライトを」
今年も「ふるさとチョイスアワード」が開催されました。ふるさとチョイスアワードは、普段は見えづらいふるさと納税の裏側にスポットライトをあて、地域にとって将来性のあるふるさと納税の活用事例を表彰するイベントです。
全国から集まった148事例から、4部門各3自治体で計12自治体がノミネートされました。
イベント当日は12人の自治体職員や事業者が、東京の会場やオンラインで取り組みをプレゼンテーションしました。
最後は、「未来につながるまちづくり部門」「チョイス自治体職員部門」「チョイスルーキー部門」「チョイス事業者部門」の4部門で大賞が選ばれました。
今回は「ふるさとチョイスアワード2021」の発表内容と舞台裏をお伝えします。
・全国からアツい自治体職員が集結
・チョイスルーキー部門
・チョイス事業者部門
・チョイス自治体職員部門
・未来のまちづくり部門
・舞台裏で繰り広げられた物語
・「これからの伴走が大事に」(主催者 佐近航さんインタビュー)
「心臓が飛び出そうです」。本番3時間前、全国から東京に集まった自治体職員さんのリハーサルが始まりました。マイクテストや機材確認を念入りに行う会場。職員さんたちは、緊張した面持ちでリハーサルに挑んでいました。
本番前の楽屋では、長野県箕輪町の横内裕汰さんと高知県馬路村の西川哲人さんが意気込みを語ってくれました。
本番は4時間にわたって12人が熱いプレゼンを披露しました。ここからは、各部門の登壇者の発表内容を紹介します。
まずはチョイスルーキー部門。ふるさと納税担当1年目で、これから地域を良くしたいという熱い想いを持つ職員に贈る賞です。大賞を獲得した自治体職員さんをはじめ、3人のプレゼンを紹介します。
大賞:高知県馬路村 西川哲人さん
「苦境から生まれた返礼品」
高知県馬路村はふるさと納税を開始した当初から、感謝を伝えることにこだわってきました。その姿勢は、新型コロナウイルスが流行し、村の医療現場がひっ迫した際にも活かされています。
村民のために今も闘い続けてくれる医療従事者の方々に、感謝とエールを伝えられないか。そう考え、感謝のメッセージ入りのドリンク「ごっくん馬路村」と木のコースター、温泉入浴券を用意。村内外の医療従事者、約500名に送りました。
西川さんは、これをふるさと納税のお礼の品にも活かしました。ごっくん馬路村のありがとうバージョンを事業者と協議をかさねて開発。馬路村に寄付してくれた全国の寄付者へ、感謝の気持ちを届けました。
「感謝を伝える取り組みの波及はまだスタートしたばかり」と話す西川さん。今後も新たな感謝のお礼の品を開発しつづけます。
大賞受賞後の声
西川さんは、小学生のときに訪れた馬路村の人々があたたかった記憶が忘れられず、馬路村に移住してきました。アワードに参加したのも、そんな馬路村の魅力やあたたかい人々を伝えたいという想いがあったからでした。
「村のみなさんの前でプレゼン練習をしたり、東京に行くときも『がんばってこいよ!』と応援していただきました。大賞受賞をした瞬間は、そんな馬路村の人たちの顔が浮かんで、感極まって泣いてしまいました」
茨城県行方市 荒野晃一さん
「感謝と感動の循環を~すべての人に寄り添うルーキー職員として~」
「191701000」。以前まで荒野さんにとって、この寄付金額の大きさはただの数字の並びにすぎませんでした。しかしふるさとチョイスのセミナーなどに参加して、事業者や市民、寄付者と向き合うようになったそうです。
事業者支援の強化、郷土愛の醸成、ファンづくりを柱に、ふるさと納税事業に取り組みました。特徴的なのが、楽器寄付ふるさと納税です。
全国で使われなくなった楽器を行方市の中学校に寄付してもらい、その査定価格を税控除する仕組みです。「あたたかい気持ちを循環させたい」。その想いを胸に、荒野さんの挑戦は続きます。
長野県箕輪町 横内裕汰さん
「物作りは好きだけど、売り方が分からない」
箕輪町の職人から「物作りは好きだけど、売り方が分からない」と言われた横内さん。職人のこだわりがつまったものを、お礼の品として多くの寄付者に届けるため、試行錯誤を繰り返しました。
そこで完成したのが、素材を数種類から選び、刻印もできるセミオーダーのパスケースです。このお礼の品は、寄付者と職人がどんなデザインにするかを直接相談できます。
寄付者は、自分だけのパスケースを作ることができ、職人は品への想いを伝えることができる。横内さんの職人と共感者をつなげたいという気持ちが形になった品です。
次はチョイス事業者部門。地場産品の魅力化やまちづくり、地域経済の活性化などにふるさと納税を活用した事業者を表彰する部門です。地域から、オンラインで想いを発信した事業者もいました。
大賞:新潟県十日町市 越後妻有のごちそう家ごったく 福嶋恭子さん
「共同食品加工所を作りチャレンジできる女性農業者を増やしたい!」
お米をはじめとしたさまざまな農産物の生産地である新潟県十日町市。そんな十日町市では、多くの女性農業者が農業と子育てを両立させています。
農産物の加工アイデアが豊富で、消費者感覚をもち合わせている彼女たち。加工品を作りたいという想いはありますが、費用やコミュニティ形成の課題で挑戦しづらいのが現状でした。
そこで福嶋さんは、ガバメントクラウドファンディングを活用し、共同食品加工所とワーキンググループの設立に挑みました。加工所は設立の真っ只中。市内のさつまいも農家と連携し、干し芋や芋スイーツの開発にも取り組んでいます。
さらに加工品づくりは、農業収入が低下しがちな冬に、農業者の収入源としても期待されます。「十日町市の農業の好循環が生まれつつある」と話す福嶋さん。これからも、女性農家の笑顔あふれる未来をつくっていきます。
大賞受賞後の声
「大賞と呼ばれたときは、驚きしかなかったです」。自分たちがやってきたことが全国で認められ、それがまた彼女たちのモチベーションになっていく。
アワードで大賞をもらったことは、さらなる活動につながっていきます。「これから夢が実現していく」と嬉しそうに話す福嶋さんをみて、十日町市の女性の活躍が楽しみになりました。
秋田県秋田市 上遠野良さん・合同会社YYY 天雲菜津子さん
「生活に寄り添い、親しみやすい薬局を目指して」
秋田県秋田市には、仕事終わりの時間に薬局が開局していないという課題がありました。そこで、ガバメントクラウドファンディングの起業家支援の仕組みを利用し、天雲さんは夜8時まで営業する薬局の開局を行いました。昼休みの時間に訪れる人たちのために、喫茶店も併設しました。
「カフェ併設の薬局」という画期的な取り組みは、全国の寄付者からのメッセージも励みになったそう。「秋田市でも、ふるさと納税で地域の起業家を応援できることをさらにアピールしていきたい」。最後に上遠野さんはそう話しました。
佐賀県 NPO法人浜一街交流ネット唐津 千々波行典さん
「唐津めしんしゃー漁師飯で漁村活性化」
唐津市は、昔から漁業が盛んな地域でした。しかし、魚介類の消費や若手漁師の減少で水産業の危機に直面しています。一方、魚介類の意識調査によると「魚介類の消費を増やしたい」「簡単に調理をしたい」という声が多くを占めていました。
そこで、漁師で結成したNPO団体が加工品の開発に取り組みはじめます。開発や販路拡大の資金をガバメントクラウドファンディングで調達。
地元の漁師飯を基本に、電子レンジで温めるだけで食べられる加工品の開発に成功しました。千々波さんは「魚の消費回復の第一歩となった」と確信しています。
自治体職員部門では、熱い想いでまちのために挑戦し続ける自治体職員さんたちが登壇しました。答えのない課題に正面から向き合い、考え行動する。自分の地域に誇りをもつ彼らのプレゼンをご紹介します。
大賞:福岡県北九州市 内海友宏さん
「感染症を契機に変わる・変える。ふるさと納税による地方創生」
内海さんはふるさと納税担当になり、北九州市のふるさと納税事業の改革を進めました。今までは外部に委託していたふるさと納税業務を、自治体職員が行うように。
また、事業者にECを視野に入れたふるさと納税の活用を推進しました。その結果、3年間でお礼の品の数は178品から598品へと増加しました。
ものづくりのまちである北九州市ならではのお礼の品も開発。焚火用具や鉄板などのアウトドア用品を職人が手がけました。
そして、お礼の品を提供する事業者は、市内に本社や事業所を構えていることを条件としました。より地域内の経済循環を促進させ、地元のブランドの創出にもつながります。
コロナ禍においてもふるさと納税には助けられたのだそう。「新たな生活様式特集」と題し、既存のお礼の品であるせっけんやマスクの見せ方を工夫しました。
医療従事者に向けたガバメントクラウドファンディングは10日間で開設。有事こそ、市職員たちの主体性が生きたのです。
大賞受賞後の声
「今までの取り組みが評価されて感激しています。ふるさと納税は返礼品競争が問題視されていますが、北九州市の取り組みを他の自治体さんにも盗んでもらい、一緒に地域を盛り上げていきたいです」
本番と同様の熱量で、受賞後インタビューにこたえてくださった内海さん。北九州市を誇りに思っていることが伝わってきました。
北海道音威子府村 横山貴志さん
「線路の石を、缶詰に!?北海道で一番小さな村の話題づくり」
音威子府村で話題を呼んでるお礼の品。それは、旧・天北線の線路に使われていた石です。「村の新しいお礼の品を発掘したい。無人駅の維持費の負担を軽減したい。
この2つの想いを掛け合わせ、廃線の石で現役の駅を応援できれば面白いかもしれない」。横山さんはひらめきました。
石の洗浄からラベルのデザインまで、村のオールハンドメイドでお礼の品が完成。お礼の品の制作ストーリーを発信するなど、PRにも工夫した結果、計100万円の寄付金を得ることができました。
そして、小さな村の大きな話題づくりは村民の自信につながりました。
東京都清瀬市 職員 海老澤雄一さん
「養蜂から始まった清瀬の魅力づくり」
10万人が訪れる清瀬ひまわりフェスティバルの来場者に、「清瀬ってお土産ないよね」と言われた東京都清瀬市の海老澤さん。
そんなとき、副市長からミツバチを育ててはちみつを採ることを命じられます。「虫は大嫌いだけど、とりあえずやってみるか」。
市役所の屋上でミツバチを育てはじめ、初年度には40キロのはちみつを採ることに成功。これをふるさと納税のお礼の品にすると、2015年ふるさとチョイスアワードの東西番付で入賞しました。
さらに、市内の事業者ではちみつを使った特産品が複数開発され、百貨店とコラボしたはちみつジェラートが販売されるまでにいたりました。話題を生んだ市役所産はちみつは、町の商業の活性化につながったのです。
ふるさと納税を活用し、未来につながるまちづくりを行う自治体に向けた部門です。10年、50年先もふるさとを持続可能なものにしていくために。さまざまな立場の人たちがつながり、一緒に地域の未来をみつめています。
大賞:島根県海士町 松田 昌大
「本当の意味で持続可能な島へ。小さな島の大きな挑戦」
「ないものはない」をスローガンにする島根県海士町。だからこそ、人を大事にする海士町の産業構造には、未来共創基金というものがあります。これは、未来につながる事業のための投資基金で、ふるさと納税総額の25%を活用しています。
環境・一次産業・教育などのプロから形成される未来投資委員会が、事業の種を審査。そこで通過してはじめて、資金の支援が行われます。銀行の融資と違い、利益だけでなく熱量や未来につながるかを重視します。
事業の種をかたちにするために、申請者には自治体職員や経営者が伴走します。島の人たちが本気になって事業をつくり上げていく。実際に、漁船をつかったマリンボート事業や、なまこの養殖事業が実現しています。
実現した事業は、実績報告をします。寄付金がどのよう使われているか、町に還元されているかを伝えることで、寄付者も事業の参画者になれるのです。官民、そして島内外がつながることで、未来を共に創りあげていきます。
大賞受賞後の声
以前の海士町は、「きずだらけだった」と話す松田さん。人が人を呼び、今の「何もない」ことを誇れる海士町になりました。
「海士町のような課題をもつ自治体の希望になれればと思います。この活動に関わった島内外すべての人たちと喜びを分かちあいたいです」。
山形県上山市 川島 啓太
「企業の技術を全国発信!上山堀切川モデルが生み出す好循環」
山形県上山市は、東北大学院教授の堀切川教授と協力し、上山市産業振興アドバイザー事業を展開しています。これは、自治体職員と堀切川教授が企業に対し、技術開発などのアドバイスをする事業です。企業に足を運んだ回数は、4年間で117回にものぼります。
「この活動は、新たな雇用の創出や市内企業の連携にもつながっている」と川島さんは話します。そして、上山市のふるさと納税の使いみちには、上山市産業振興アドバイザー事業が含まれています。
寄付金でお礼の品を開発し、お礼の品が寄付者に届く。全方向良しの循環がうまれているのです。
埼玉県深谷市 福嶋 隆宏
「寄附を基金化し、農業版のシリコンバレーの実現を目指す!」
埼玉県深谷市は、農業と食品製造業がつよいのですが、農業就業人口は減少しています。そんななか、市外から技術革新の高い企業をよび込み、アグリテック集積戦略を進めています。
アグリテックとは、農業(Agriculture)とテクノロジー(technology)を掛け合わせた言葉。農業版のシリコンバレーである「ディープ(深)バレー(谷)」を目指します。
アグリテックビジネスコンテストも開催しており、優秀賞にはふるさと納税を活用して事業の出資を行います。
「ふるさと納税の財源をいかし、コンテストをアグリテック企業の登竜門とする」。深谷市における農業の可能性は広がっています。
今年もオンラインで開催しましたが、登壇者のみなさんは全国各地から東京の会場に集まりました。自治体職員やトラストバンクスタッフが直接交流する機会が多く見られた当日。直接会う機会が減った今だからこそ、そんな交流が貴重なものだと感じました。
今回登壇された方々は、全国でもふるさと納税を引っ張っていく存在です。そんな方々の次の活動につながるモチベーションになればと思い、企画してきました。
数日前に練習した時と比べて、本番では内容がアップデートしていたり、話し方が上手になっていたり、そんな姿を見られたことも嬉しかったです。
イベントが終わったらホッとするのかなと思ったのですが、違いました。本番で自治体職員さんの熱を間近で感じ、アワードが終わったから終わりじゃない、これからの伴走が大事なんだ。これから地域を一緒につくっていくのがトラストバンクなんだと感じました。今後は通常業務でも彼らのサポートをしていきたいと思います。
(取材執筆=広報渉外部インターン・佐々木あさひ)